太陽光発電バイパスダイオード故障判定原理と測定器選び方
バイパスダイオードとは、太陽光発電における不具合を軽減、回避するために発電回路を迂回させる素子のことをいいます。発電効率の低下を抑える経済的な側面と、火災という最悪事態の発生を阻止する安全的な側面があります。2016年年末に保守点検ガイドラインに規定されて、最近ますますダイオード検査の重要性に注目が集まっています。
図1-1 バイパスダイオード イメージ
本ブログでは、これまで、「太陽光発電O&M 設備メンテナンスと測定のポイント」で太陽光発電設備の概要を、「太陽光発電I-Vカーブトレーサーと故障位置測定器選び方」でI-Vカーブテスター群と故障位置測定に特化した故障位置測定器群の測定器の選び方を取り上げました。これらの測定器はバイパスダイオードの故障判定に役立ちます。
一方で、NTTRECは、新たにバイパスダイオードの故障に対応した専用測定器を商品化予定です。それに伴い、バイパスダイオードについて「太陽光発電バイパスダイオード故障判定原理と測定器選び方」と題して、以下に示すとおり解説します。
この記事のトピック目次
- バイパスダイオードの直観的理解
- ダイオードの特性から見た太陽電池・バイパスダイオードの系としての動作
- バイパスダイオードのオープン故障
- バイパスダイオードのショート故障
- ガイドラインへの保守点検・メンテナンス基準作りの機運の高まり
- 太陽光発電システム保守点検ガイドライン(JM16Z001)に規定されたバイパスダイオード試験
- バイパスダイオード検査に関する測定器の選び方
- バイパスダイオード故障判定装置の選び方
1.バイパスダイオードの直観的理解
バイパスダイオードは、写真1-1に示すように、モジュール(パネル)の裏のジャンクションボックスに設置されています。
写真1-1 バイパスダイオード その1
バイパスダイオードの直観的理解は、「太陽光発電O&M 設備メンテナンスと測定のポイント」が役にたつと思います。以下、自ブログを再掲します。
「太陽電池ですから、影がかかれば電流が流れにくくなります。直列に接続されたモジュールの一部のセルに影がかかってしまうとどうなるでしょうか? その一部のセルのためにモジュール全体の電流が流れにくくなってしまいますね。それを避けるために、モジュールを3つのセルのグループに分けて、影がかかって流れにくくなったグループに対する電流の迂回路(バイパス)を作っています。もちろん、正常時は、迂回路を通る必要はありませんから図1-2のような電流経路になります。」
図1-2 正常時の電流経路
写真1-2でわかるように、モジュールの裏に設置してあるスイッチングボックスに3つのバイパスダイオードが接続されています。
写真1-2 バイパスダイオード その2
「この迂回路は、グループに対してバイパスダイオードを並列に配置することで実現しており、この組み合わせをクラスタと呼んでいます。モジュールは、3つのクラスタを直列に接続した構成となっているわけです。
図1-3に欠陥クラスタが生じモジュールに異常をきたすときの電流経路を示しました。バイパスダイオードとクラスタの関係をイメージできると思います。一つのセルの欠陥で、そのクラスタも欠陥となります。3クラスタで構成されているモジュールならば、モジュールの発電能力が1/3減ります。」
図1-3モジュール内に異常が生じた時の電流経路
セルに影がかかると、セル自身が抵抗体になります。そのセルが電気抵抗を引き起こして、電力を消費します。セルの電力消費は、そのセルをヒートアップさせ、発電効率を低下させるとともに、その度が過ぎると火災という最悪の事態につながります。それを回避するバイパスダイオードは、経済的側面と安全的側面で貢献しているのです。
2.ダイオードの特性から見た太陽電池・バイパスダイオードの系としての動作
(1)ダイオードの特性
ダイオードとは、電圧がかかっている順方向には電流を流し、逆方向には電流を流さない、整流作用があるP-N接合の半導体素子のことをいいます。
図2-1 ダイオードの記号
図2-2にダイオードのI-Vカーブを示します。順方向にダイオードに電圧を印加すると、ある電圧以上の時に、急激に電流が流れます。それ以下では、ほとんど電流は流れません。電流が流れ始めるときの電圧を順方向電圧といい、VFで表記します。ダイオードによって差異がありますが、VFの値は概ね0.5Vから1.5V程度です。
逆方向に電圧を印加すると、ほとんど電流は流れません。逆方向の電圧をさらに印加していくと、急激に電流が流れますが、それ以上の電圧を加えるとダイオードは破壊されます。
図2-2 ダイオードのI-Vカーブ
図2-4 バイパスダイオードと太陽電池の電流の向き その2
バイパスダイオードも太陽電池も同じPN接合体からなるダイオードです。両者の何が同じで、どこからどう違うのか等、原理を理解したい方は、「太陽電池とバイパスダイオードの原理に関する基礎知識」をご覧ください。
(2)太陽電池とバイパスダイオードの系としての動作
①正常発電状態時
発電素子の中(内部回路)で、太陽電池のダイオードのカソードからアノードの向きに低い電位(-)を上げ(+)、その方向に電流が流れます。これが発電です。
図2-6 正常発電状態時
②非正常発電状態時でバイパスダイオード動作時
モジュールに影がかかって、その部分のセル(ダイオード)が発電していない状態が非正常発電時です。そのセルは抵抗体になり、電力を消費し、バイパスダイオードⅡのA側はB側より電位が高くなります。
この電位差が順方向電圧に達すればⅡが動作し、当該クラスタはバイパスされますので、電位は図2-7に示すグラフのようなイメージになります。
図2-7 非正常発電状態時でバイパスダイオード動作時
3.バイパスダイオードのオープン故障
オープン故障(開放故障)とは、迂回機能を失っている故障のことです。
(不良セル:製品劣化や影がかかって正常な発電ができなくなっているセル)
図3-1 パイパスダイオードのオープン故障
不良セルは、正常なセルと直列に接続されています。バイパスダイオードがオープン故障していると、不良セルに関わらず全てのセルに同じ電流がれます。
不良セルは抵抗体となっているので発熱という形で発電電力が自己消費されます。不良セルの温度が上昇し、更なる劣化、やがてはピンポイントで異常に高温となるホットスポットを生成し、火災の危険にもつながります。
一方で、バイパスダイオードが故障していても、正常発電しているのであれば、そもそもバイパスダイオードの出番はありませんので、故障に気づくことがありません。
当初、不良の程度が発電に影響を及ぼさない軽微なものであったとしても、そこから不良セルの劣化は進行します。
バイパスダイオードのオープン故障は気づかれず放置されたままで、不良セルの劣化が進行し続けたら・・・・・
オープン故障は、バイパスダイオードが動作する状況になって初めて把握できる状況であるため、オープン故障初期に発見することは難しいのです。
さらにこれまでのバイパスダイオードのオープン故障の検知は、クラスタ単位に太陽電池を遮蔽する必要があります。1ストリング10モジュールであれば30個のバイパスダイオードに対して影を30回遮蔽して測定をする必要があります。
ましてや太陽電池は屋根等の高所にあるケースが多く、影の遮蔽作業は煩雑になり、安全性、費用面の観点で日常的な作業に支障をきたします。
このような様々な背景から、大事につながる故障ながら、検知されにくく、それゆえこれまであまり認識されていなかった、ということがバイパスダイオードのオープン故障の特質といえるでしょう。
太陽光発電工学研究センター システムチームチーム長 加藤和彦工学博士のコメントを紹介します。
「(割愛)。バイパスダイオードが健常であるか否かを確認する項目がないし、その手段についても今まで合理的な方法、実用的な方法がなかったということで、意外と知られていない不具合です。影がかかっていない状態ではバイパスダイオードは働かないので、あってもなくても発電量、出力に与える影響はほとんどとない、といっていいほどないですが、そこが健常でないのは太陽電池パネルの安全面について非常に危うい状況にあると我々は判断しています。」
「経済産業省 資源エネルギー庁 太陽光発電チャンネル動画中の発言を一部文書化して引用」(http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/ohisama_power/tv/)
上記において、「太陽光発電I-Vカーブトレーサーと故障位置測定器選び方」でも取り上げている故障位置測定器の一つである「SPLC-A」を使って点検をしている動画がアップされています。
以下、その内容を文面化したものを紹介します。
「写真3-1に示すように、ゴムシートをかけていない時は、正常に信号が鳴っています(赤いランプが点灯)。そこに画面の上にある黒いゴムシートをかけると遮光されて発電ができなくなります。本来ならこの部分はバイパスダイオードによって電流が迂回されるので、信号がなりやむ(赤いランプが消灯)はずです。
写真3-1 信号がなっている状態でゴムシートをかけようとしているところ
しかし、写真3-2に示すように鳴りやまず、赤いランプが点灯したままです。バイパスダイオードがオープン故障しているので、迂回できず、電流がそのまま流れ込んでいるのです。だから赤いランプが点灯したままになっています。
写真3-2 ゴムシートをかけたのに信号がなりやまない
(http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/ohisama_power/tv/)
以下にケトミックス社の「バイパスダイオード故障によるホットスポット現象」に掲載されている写真を引用します。
写真3-3 ホットスポット事例
写真3-4 ホットスポットによる封止材の溶解
写真3-5 ホットスポットによるバックシートの溶解
株式会社ケトミックス PV試験評価事業部 環境・信頼性事業部
「太陽電池モジュールの故障解析 PVのコンシェルジュを目指して」より引用
NPO法人 信州松本アルプスの風 からも引用します。
写真3-6 ホットスポットにより破損したモジュールの表面とバックシート
(ホットスポットについては、別途、発生メカニズムやそれを検査する赤外線サーモグラフィー等をまとめたいと思います。)
4.バイパスダイオードのショート故障(短絡故障)
ショート故障(短絡故障)とは、正常に発電しているクラスタの電力が、ループ状態となることにより正常に取り出せなくなる故障のことを言います。
図4-1 バイパスダイオードのショート故障
もっとやっかいなことは、必要もないのにバイパスダイオードに多くの電流が流れ続けてしまう、ということです。バイパスダイオードは、もともと電流が長時間、大量に流れるづけることを前提とした設計になっていません。
そのため、バイパスダイオード自身が発熱してしまい、バイパスダイオードが実装されているジャンクションボックスが熱変形したり、溶融してしまうこともあります。
いったんループが形成されると、遮光しない限り、無条件に発電し続けてしまいます。発熱状態が続き、火災が発生する危険性もあります。
ショート故障の検知においては、出力電圧の低下を精度よく検知することがポイントです。バイパスダイオードがショートすると、そこに該当するクラスタが発電に寄与できなくなります。1クラスタは10V程度ですので、1000Vのシステムであれば、10Vの差分を検出することがポイントになります。
以下に不具合事例を引用します。
写真4-1 赤外線サーモグラフィーによるバイパスダイオード加熱の様子
http://www.chemitox.co.jp/wp-content/themes/chemitox/pdf/24.pdf より引用
5.ガイドラインへの保守点検・メンテナンス基準作りの機運の高まり
2017年4月1日に改正FIT法が施行されました。改正FIT法の目的は、「再生可能エネルギーの最大限の導入」と「国民負担の抑制」の両輪を回すことにより、「最適なエネルギーミックスを実現していく」ということです。
要は、「これまでの取り組みは再生可能エネルギーを増やす仕組み作り」でしたが、「これからは長期間、安定的に稼働させるための仕組みに変革する」、ということです。ケースによっては、「認定取り消し」という厳しい厳罰も規定されています。
その観点から、太陽光発電のO&M、運用・保守メンテナンスがますます重要な位置づけになってきました。この背景の一つとして、太陽光発電にからむ事故、トラブルが急増しているということがあります。
しかしながら、保守点検、メンテナンスに関する明確な基準、ガイドラインが存在していないのが、これまでの実態でした。そこで、改正FIT法の施行に合わせ、太陽光発電のO&M、運用・保守メンテナンスに関する明確な基準作りが必須である、という機運が高まってきました。
以下、経済産業省 資源エネルギー庁 資料から引用します。
■長期安定発電には、導入後のメンテナンス(保守・点検)の確実な実施を促していくことが鍵。
■新認定制度では、事業者が事業計画において、適切に点検・保守を行うことを盛り込むこととしているが、具体的に実施すべき内容を規定するガイドラインを、今後、国と民間において役割分担をして策定し、適切なメンテナンスの水準を確実に担保していく。」
(2)長期安定発電の体制構築①保守・点検のガイドライン整備 平成28年6月 資源エネルギー庁
6.太陽光発電システム保守点検ガイドライン(JM16Z001)に規定されたバイパスダイオード試験
前項で、経済産業省が、「具体的に実施すべき内容を規定するガイドラインを、今後、国と民間において役割分担をして策定し、適切なメンテナンスの水準を確実に担保していく」と言明していることの一環として、「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」が2016年12月28日に公開されました。
「太陽光発電O&M 設備メンテナンスと測定のポイント」に示したとおり、一般社団法人日本電機工業会(JEMA)及び一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)により共同作成されました。
このガイドラインで、バイパスダイオード試験が初めて明記されたことが、関係者の間で話題を呼んでいます。ここでは、その原文を引用します。
13.4.3 バイパスダイオード試験
バイパスダイオードは、オープン故障又はショート故障が発生するおそれがある。あるストリングが他のストリングの平均電圧よりも低い電圧である場合は、ダイオードが1つ以上短絡している兆候かもしれないと予測できる。
オープン故障したダイオードは、バイパス回路への迂回がなければ兆候を予測し難いものである。別途バイパスダイオード故障判定装置などを使用することが望ましい。
バイパスダイオード故障がある場合は、太陽電池モジュール製造業者と協議して、当該バイパスダイオードが交換可能であるか、それとも当該太陽電池モジュール全体を取り外して交換すべきかを決定する
13.4.3.1 オープン故障ダイオード試験
直列ストリング中の太陽電池モジュール(複数)の一部に、選択して影をあてることにより、オープン故障したダイオードを検知することができる。
a) 各太陽電池モジュールの当該バイパスダイオードが担当しているクラスタのエリアに選択的に影をあてる。
b)各エリアに影をあてていきながら、電流低下がないかを探す。オープン故障したダイオードは、影となったセルを迂回するバイパス経路を作ることができないため、電流が大きく低下することになる。
c) 上記手順は長時間の作業を要するため、市販されているバイパスダイオード故障判定装置での検査のプロセスも活用できる。
13.4.3.2 ショート故障ダイオード試験
ショート故障したバイパスダイオードは赤外線サーモグラフィ又はストリング内で電圧の低い太陽電池モジュールがないか電圧測定を行うことで判定する。
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/res/solar/pdf/161228_pv_maintenance.pdf より引用
7.バイパスダイオード検査に関する測定器の選び方
(1)I-Vカーブトレーサーと故障位置測定器
「太陽光発電I-Vカーブトレーサーと故障位置測定器選び方」で異常ストリングから異常モジュール、異常クラスタへと絞り込み、故障位置を特定することについて説明しました。表7-1に示した測定器は、オープン故障ダイオード試験やショート故障ダイオード試験に役立ちます。
異常ストリングの絞り込み | I-Vカーブトレーサー | IVH-2000Z | Epsilon1000 PVA14300 |
MP-11 | SPST-A1 | SPST-A2 | FT4300 | I-V400W |
新栄電子計測器 | 日本カーネルシステム | 英弘精機 | 戸上電機製作所 | 日置電機 | HT ITALIA | |||
故障位置測定器 | ソラメンテ-Z | |||||||
SOKODES | アイテス | |||||||
システム・ジェイディー | ||||||||
異常モジュールの絞り込み | ソラメンテ-iS | SPLC-A | SMD-200 | |||||
アイテス | 戸上電機製作所 | 新栄電子計測器 | ||||||
ただし、使用にあたっては、前述と重複しますが、以下の点を考慮する必要があります。
①オープン故障ダイオード試験を行う上での留意点
・オープン故障は、バイパスダイオードが動作する状況になって初めて把握できる状況であるため、オープン故障初期に発見することは難しい。
・太陽電池を遮蔽する必要がある。1ストリング10モジュールであれば30個のバイパスダイオードに対して影を30回遮蔽して測定をする必要がある。
・太陽電池が屋根等の高所にあるケースが多く、影の遮蔽作業は煩雑になり、安全性、費用面の観点で日常的な作業に支障をきたす。 等
②ショート故障ダイオード試験を行う上での留意点
・バイパスダイオードがショート故障すると1個あたり約10Vの開放電圧が低下
・1ストリング10モジュール300V規模であれば、10Vは3.3%相当。この10Vを精度よく測定することが有効な手段となる
(2)バイパスダイオード故障判定装置のニーズの高まり
以上示した留意点から、特にオープン故障に関するバイパスダイオード故障判定装置のニーズが高まってきました。
6項で示した「太陽光発電システム保守点検ガイドライン(JM16Z001)」の一部を再掲します。
「オープン故障したダイオードは、バイパス回路への迂回がなければ兆候を予測し難いものである。別途バイパスダイオード故障判定装置などを使用することが望ましい。」
8.バイパスダイオード故障判定装置の選び方
バイパスダイオードテスタ FT4310(日置電機)とバイパスダイオードチェッカーBDC15310(日本カーネルシステム株式会社)
(1)バイパスダイオードテスタ FT4310(日置電機)メーカーアピール
- 世界初 特許取得(第6113220号)
- 世界初の技術で日射下でも遮光せずに開放故障したバイパスダイオードが検出可能(短絡故障は昼間のみ検査可能)
- 接続箱のストリングで簡単に検査できるため、屋根に登る必要がなく、作業効率が格段に向上
- 1回の検査で開放電圧、短絡電流、バイパスルート抵抗を測定し、一括表示
- ブザー音と赤色発光で異常をお知らせ
- 測定と記録を繰り返す業務を効率化(Bluetooth®でデータを自動転送)
- 故障前に異常を発見(コンパレータ(比較判定)機能で劣化を検出)
写真8-1
写真8-2
写真8-3
写真8-4
(2)バイパスダイオードチェッカーBDC15310(日本カーネルシステム株式会社)メーカーアピール
- 測定方法、内部回路構成について特許出願中
- シンプルな操作と夜間測定にこだわった小型で廉価な製品
- 発電を邪魔しない夜間にバイパス回路を点検
- ストリングでの判定が可能
- 接続箱等での測定で、屋根上など高所作業が不要
- シンプルな操作性(プッシュ1ボタンで測定)
- 小型でポータブル(単三電池4本or USBで動作)
- 高速測定(測定開始から結果表示まで約1秒)
- 内部メモリに9999件の測定データを保存
- 過電流防止機能で安全な測定(PVを保護)
写真8-5
写真8-6
写真8-7
写真8-8
(3)バイパスダイオード故障判定装置(日置、カーネル)仕様一覧
機器名 | バイパスダイオードテスタ (FT4310) |
バイパスダイオードチェッカー (BDC15310) |
|
---|---|---|---|
メーカ | 日置電機 | 日本カーネルシステム | |
外観 | |||
発売時期 | 2017.2 | 2015.8 | |
BPD TESTモード | 測定項目 | バイパスダイオードの良否判定, バイパスルート抵抗, 開放電圧, 短絡電流, 測定(印加)電流 | バイパスダイオードの健全性点検 |
測定対象 | 結晶系ストリング, 開放電圧:1000 V以下, 定格電流:2〜12 A(昼夜測定可) | 結晶系などの直列接続の単一PVストリングに限る(夜間測定) | |
測定方式 | 短絡およびパルス電圧印加方式 | バイパスダイオードのVF測定(VF測定レンジ:電圧:0~100[V]、電流:0~100[mA]) | |
測定確度 | 開放電圧: 0〜±1000 Vにて±0.2%rdg. ±3 dgt. 短絡電流: 0.0〜15.0 Aにて±3%rdg. ±3 dgt. バイパスルート抵抗: 0.0〜15.0 Ωにて±5%rdg. ±5 dgt. (純抵抗測定時) |
||
測定時間 | 2秒以下 (測定電圧が10 V以下の場合は3秒以下) | 約1秒 | |
測定可能回数 | 3000回 (コンパレータ, LCDバックライト, Bluetooth® OFF, 単3形アルカリ乾電池使用時) | ||
Vocモード | 測定項目 | 開放電圧 | – |
測定範囲 | DC 0 V〜1000 V (表示はDC 1200 Vまで), 確度±0.2%rdg. ±3 dgt. | – | |
応答時間 | 1秒以下 | – | |
通信インターフェース | Bluetooth® 4.0 LE (Bluetooth®) 搭載, Bluetooth®通信によりiOS端末またはAndroid端末に測定値表示 | USB | |
防じん防水性 | IP40 (EN60529) | - | |
大きさ mm W×D×H |
152×69×92 mm | 131×131×51mm | |
重さ | 約650g(電池含む, テストリード含まず) | 約500g | |
電源 | 単3形アルカリ乾電池 (LR6) 6本 | 単3電池 4本 or USB | |
レンタル月額(税抜)* | ¥33,400 | 未定 近日レンタル化 |
*レンタル価格は週額対応、また長期割引きあり
(4)バイパスダイオード故障判定装置(日置、カーネル)比較のポイント
双方ともオープン故障とショート故障に対応します。
オープン故障対応の検出原理は、バイパスダイオードの順方向電圧を印加した時の電流値測定であり、双方とも本質的に同じです。
ただし、順方向電圧印加はモジュールに負担をかけるという懸念があります。これに対して、日本カーネルシステムは夜間対応にこだわる一方で、日置電機は日射時でも対応可能とする開発思想に違いがあります。別途後述します。
両者ともに、異常ストリングの絞り込みまでのみの対応です。その後の異常モジュール及び異常バイパスダイオードの特定には、「太陽光発電I-Vカーブトレーサーと故障位置測定器選び方」でラインナップしている故障位置測定器を使用します。
日本カーネルシステムのBDC15310は日置電機のFT4310より安価ですが、利用シーン、条件等で適宜コストパフォーマンスに基づき判断されるとよいでしょう。
機器名 | バイパスダイオードテスタ (FT4310) |
バイパスダイオードチェッカー (BDC15310) |
|
---|---|---|---|
メーカ | 日置電機 | 日本カーネルシステム | |
外観 | |||
ショート故障対応 | ○ | ○ | |
オープン故障対応 | ○ | ○ | |
開発思想 | 昼夜間対応 | 夜間対応 | |
検出原理 | 順方向電圧印加時の電流値測定による | ||
測定範囲 | ストリングまで。モジュール絞り込みは別対応 | ||
PCインタフェース | Bluetooth® | USB | |
レンタル価格月額(税抜)* | ¥33,400 | 未定 近日レンタル化 |
*レンタル価格は週額対応、また長期割引きあり
(5)I-Vカーブで理解するバイパスダイオードオープン故障の検出原理
オープン故障の検出においては上記の系のI-Vカーブ図8-1を利用します。
図8-1 太陽電池とバイパスダイオードの系におけるI-Vカーブ
第1象限は、太陽電池が発電している状態で、電圧、電流ともにプラスの領域です。第2象限は、太陽電池に影がかかって抵抗が増し、電力を消費している状態で電圧がマイナスとなっている領域です。ここでは、バイパスダイオードが正常でも故障でも、系としては、太陽電池が発電しているときと同じ方向に電流が流れるので電流はプラスです。
太陽電池に影がかかり、バイパスダイオードが動作するのは、バイパスダイオードにとって順方向電圧VFが印加された時です。しかし、そのVFは、太陽電池から見ればみずから発電してプラスと定義する電位とは逆方向なので、-VFと定義されます。
バイパスダイオードが正常な場合のグラフは、太陽電池に-VFが印加されて、電流がバイパスダイオードに一気に流れ込むことを示しています。
一方で、バイパスダイオードがオープン故障している場合のグラフは、太陽電池と同じ電流が無理やり流しこまれ、電力を消費していることを示しています。
バイパスダイオードのオープン故障の検出原理は、相当にざっくりと言えば図8-2に示すとおりです。
バイパスダイオードが3つあって、一つあたりの順方向電圧がVFであれば、その合計の順方向電圧 Vtest =3 VF + αを印加して、バイパスダイオードの電流の有無により、オープン故障を検出します。
図8-2 バイパスダイオードのオープン故障の検出イメージ
もし、夜間であれば太陽電池は発電していないので、バイパスダイオードのAからBの方向にVtestを印加します。
日射下で発電状態にあるときは、発電電圧VにVtestを加味したVtest‘=V + Vtestを印加します。
しかしながら、日射下の発電状態でVtest‘=V + Vtestを印加すると、モジュールへの負担がかかることは容易に想像できます。また、バイパスダイオードが正常で、そこへの電流が急増した場合は大変です。
その点への対応については、日置電機と日本カーネルシステムは、各々の開発思想を持って商品化に取り組んでいるようです。
(6)バイパスダイオードのオープン故障検出に対する開発思想
日置電機と日本カーネルシステムの開発思想をオープン資料から引用します。
i)日置電機
バイパスダイオードの開放検出は可能であっても太陽電池を壊してしまっては意味がないため、測定時にストリングに与える影響については充分検討されています。最初にIscを測定したうえで、Isc+1Aの定電流制御であること、印加時間が数msと短いこと、その測定原理から、ストリングに与える影響はIV曲線を測定する場合や、短絡して絶縁抵抗を測定する場合とほぼ同じ程度で、太陽電池を壊すことはありません。
日置電機 FT4310がストリングに与える影響
https://www.hioki.co.jp/jp/products/listUse/?category=68 より引用
ii)日本カーネルシステム
低日射時点検のこだわり
・PVへ負担をかけない低日射時に測定
・発電の邪魔をしない
・切替器(開発中)使用で夜間に最大64ストリングの自動測定が可能
逆バイアスにてIsc以上の電流を印加すれば、太陽電池が発電している日中でも測定が可能です。しかしながら、通常運用ではメーカーが想定しない電圧を印加することによるPVモジュールへの影響が懸念されます。
特に、BPDオープン故障時は、当該クラスタのすべてのPVセルへ、最も発電状態のよいセルのIsc相当の電流を流すため、部分影等により発電状態にばらつきがある場合は、BPD検査により、セルを破壊する当の危険性が考えられます。
本機は太陽電池モジュールへの影響を考慮し、負担をかけない夕方や夜間測定に限定した設計としました。
[切替器(開発中)と組み合わせた運用の場合]
日中に接続箱にセットすると夜間自動的に測定し、翌朝には測定終了しますので人件費を抑え、安全にバイパスダイオードの点検が可能です。
以上、「太陽光発電バイパスダイオード故障判定原理と測定器選び方」を解説させていただきました。NTTRECにおいては、他にも太陽光発電関連商品のラインナップ(一部)がありますので、図8-3をごらんください。
なお、コーポレートサイトHPのREC VALUE STORYで、新規参入領域の太陽光発電設備のメンテナンスをケースとして、NTTRECの設立経緯、強み、新規参入の考え方、新規参入領域での取り組み姿勢等をストーリー化してとりまとめてありますので、ご一読ください。
https://www.nttrec.co.jp/recvaluestory
図8-3 太陽光発電関連商品のラインナップ(一部)
松田 淳 NTTレンタル・エンジニアリング株式会社代表取締役社長【※本記事投稿時点】
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